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つくり手の想い とかちの味力 技術・魅力にせまる

Vol.1 十勝のじゃがいも

Vol.1 十勝のじゃがいも

多様な品種、熟成、オーガニック・・選ばれる理由は進化しつづけること。
十勝でじゃがいもを育てている、それぞれの生産者のこだわりに迫ります。

Episode 01 熟成ジャガイモに恋をして

シェフが指名買いするジャガイモ

帯広市・大正地区といえば「メークイン」の一大産地。土地の地力に農家の知力が重なり、全国に美味しいジャガイモを流通させています。誰もが自分のジャガイモに誇りを持ち切磋琢磨し、常に品質向上がなされている地域。その中でも、注目されるのがとかち井上農場の「雪蔵甘熟メークイン二冬越(ふたふゆごし)」です。

とかち井上農場には、全国のシェフや料理家、バイヤーなど食の業界人がたびたび訪れます。その甘味、食感、うま味、香り、調理方法やお客様の反応など、唯一無二の熟成ジャガイモについて、誰もが自分のことのように嬉しそうに話します。関わる人みんなが「一緒に新しいジャンルを開拓している」そんなワクワク感がこの熟成ジャガイモにはあるのです。

農場主の井上慎也さんは、対話を通じた喜びの中に課題を発見し、さらにおいしいジャガイモを作る策を練り、より丁寧に雪室貯蔵庫の管理を試みます。多様な人との交流こそが、井上農場の熟成ジャガイモを更に美味しくさせているエッセンスなのです。

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雪が加湿の役割を!

農協指導の下、出荷時期を農家が選べる「個選(生産→選果→箱詰め→出荷)」を行う井上農場では、相場が上がる122月の冬場のジャガイモを確保するために断熱された専用貯蔵庫で保管しています。出荷量が増え第2貯蔵庫建設を機に2014年から雪室貯蔵を始めました。当時は真冬のイモ凍結防止が目的でしたが、冬の出荷が終わると夏は貯蔵庫を遊ばせてしまう。これはもったいない...と雪を入れたまま夏を越す「熟成ジャガイモ」への挑戦が始まりました。

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最初の2年は雪の量によってどのようにジャガイモが変化するのかを試験。雪が解ける際に出る水分が加湿の役割を果たし、実が痩せることなくハリのある状態で保存できました。普通の冷蔵庫貯蔵と比べると見た目は大きく異なり、味は予想通りの甘さに!

色々な人に試食をしてもらい感想を聞き、希望にあわせた小口販売もしていました。この間、農協職員さんも時々様子を見に来てくれ、そのたびにおすそ分けをしていました。そのおかげで() 3年目に農協を通して最初の大口販売が決まったのです。そして2021年には二冬越の大口販売を目的に第三貯蔵庫を建設しました。

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2年美味しいジャガイモをどう作るか?

熟成にばかり目が行きがちですが、そもそも収穫から2年もの間、おいしさを保つジャガイモをどう作るのか?これこそがとても重要です。

「試験的に8月下旬の早出しメークインを何十キロか保管したことがありますが、長期貯蔵に耐えられなかった」と井上さん。でんぷんを糖に変えて甘くなる熟成ジャガイモは、畑の中でしっかりでんぷん質を蓄えねば美味しくなりません。そのため収穫は一番最後、自然枯凋*(こちょう)で葉が枯れ、畑の中で完熟するまで育ったモノと決めています。
また、収穫にも最新式の農機を使っており打撲が少なく、ダメージが最低限です。ジャガイモは触ると痛み、表面の細胞が壊れ、水分も抜けやすくなるのです。農場全体で年間300tのジャガイモを作りますが、熟成ジャガイモとなるのはその中の4050tのみ、収穫から保存まで、より丁寧に慎重に扱うように心がけています。

注:出荷時期にあわせ、葉や茎を枯らす薬剤や、茎を切るチョッパーを使うなどして枯凋(こちょう)を進ませるケースが多くあります。

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もっとジャガイモに集中したい!

収益性が高いとはいえ、まだまだ一般的ではない熟成ジャガイモ、マーケット的には種まきの状況です。とかち井上農場では将来、ジャガイモだけで経営が成り立つようなコンパクト経営を目指しているといい、2023年からは長いも栽培もお休みすることにしました。

「朝も夜も、毎日イモのことを考え、イモだけに集中したい」。

畑を上手に休ませながら土の力を維持し、美味しいジャガイモをひたすら作り続けられれば、相手先から必要とされる農家になれるのではないか?井上さんはそう考えます。

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十勝では農家の大規模化が進むものの、農家人口の維持は難しくなってきています。
代々家督を継ぐのが当たり前とされる農業界ですが、強く太い柱を作ることができれば、新たな農業のあり方を模索していく可能性もみつかるのではと話します。経営資源を集中し、美味しさを突きつめていくとかち井上農場の「雪蔵甘熟メークイン二冬越」から、ますます目が離せなくなりそうです。

おすすめレシピ

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雪蔵甘熟メークインのビシソワーズ

他にはない濃厚な甘みと、ねっとりとした食感が特徴的なじゃがいもです。煮崩れもしにくく、特に炒め物や煮物、長時間の煮込み料理に使いやすいなと感じました。加熱すると甘味がかなり際立つため、香味野菜や乳製品で上手にバランスを取ることができるビシソワーズは、じゃがいもの濃い甘みを楽しめるレシピです。少量のじゃがいもでも、しっかりとパンチのある味わいに仕上がります。また、食べる前にしっかりと冷やすことで、味わいもまろやかになり、トロッとした喉越しをより楽しむことができます。

<材料> 2人分
甘熟メークイン
1個(80~100g)
玉ねぎ
50g
セロリ
50g
チキンブイヨン(スープの素を溶いたものでも可)
300ml
牛乳
50ml
生クリーム
大さじ1
小さじ 1/2
こしょう
少々
オリーブオイル
小さじ2
パセリ
適量

<作り方>

(1)

じゃがいもは皮をむき、5mm幅の薄切りにして水にさらす。玉ねぎは皮をむき、セロリは筋を取ってじゃがいもと同様に5mm幅の薄切りにする。

(2)

鍋にオリーブ油を熱し、(1)を加えて焦がさないようにじっくりと炒める。

(3)

全体にしんなりとして、じゃがいもが透き通ってきたら、チキンブイヨンと塩を加えて一煮立ちさせる。途中アクを取りながら、野菜が柔らかくなるまで約20分煮る。

(4)

(3)の粗熱が取れたらミキサーに入れ、滑らかになるまで攪拌する。

(5)

牛乳、生クリーム、こしょうを加えて冷蔵庫で軽く冷やす。

(6)

器に盛り付け、刻んだパセリを散らす。


ともながあきよ さん

フードコーディネーター/日本茶アドバイザー

"「食」で日常を最高に豊かに"を軸に、Web媒体、新聞、フリーペーパーを中心に料理スタイリング・レシピ作成に従事し、携わったカタログ・会員誌は200冊近く。ほっとする家庭的なフードスタイリングを多く手掛ける。また、食品メーカーでの調理指導・レシピ作成指導を4年担当し商品の魅力を最大限に広げるアレンジレシピに定評がある。

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