Vol.2 十勝の牛肉
味にも肉質にも妥協しない・・最高の牛を育てる秘訣は、牛とまっすぐ向き合うこと。
日々愛情を込めて牛を育てる、生産者のこだわりに迫ります。
Episode 01 酪農大国が産んだ、ここにしかない赤身ブランド肉「十勝若牛®」
2012年、牛肉サミットでグランプリを受賞
十勝若牛®は、JA十勝清水町が手掛ける赤身のブランド牛肉。
その定義はユニークです。通常、ホルスタインの雄牛は生後20カ月程度で肉として出荷されるのですが、十勝若牛®は約半年早い14カ月で出荷されます。サシを求めず、赤身のジューシーさを追求した柔らかいお肉は、子供からお年寄りまで幅広い層からの支持を得ています。
酪農が盛んな十勝清水町では、たくさんのホルスタイン種の仔牛が産まれています。しかし乳をだす雌牛とは違い、雄牛は付加価値が付きにくいのが現状です。「生産者に少しでも多く還元を!」と考えるJA十勝清水町の職員が、ある日見つけだしたのが、オーストラリア の"イヤリングビーフ"でした。イヤリングビーフとは、18カ月未満で出荷する赤身牛肉。飼育期間が短い分、環境負荷も低く、早く収入にもなります。「これだ!」と着手し始めたのが30年ほど前のこと。ここから十勝若牛®が始まったのです。
しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではなく試行錯誤の連続でした。
枝肉が規格のサイズと異なることから、出荷ルートがありません。やむなく生産から流通までを担う体制を一から整えざるを得ませんでした。JA十勝清水町が所有する精肉工場を活用し、販路も独自で開拓せねばなりません。当初は、なかなか価値を理解してもらうことは出来ませんでした。
粘り強い取り組みと信念で、この牛肉価値を高めるために安全と品質管理を徹底。トレーサビリティ(注1)はもちろんのこと、全頭の官能検査(注2)による味の確認などを行ってきました。これによりオリジナルブランド「十勝若牛®」の認知が徐々に向上していったのです。
さらにこれらの取り組みが評価され、地域団体商標(注3)をいち早く取得。2012年には名だたるブランド牛が揃う牛肉サミットでグランプリを獲得し、赤身肉のブランド牛としての認知を得ていきました。
注1:牛がお肉になるまで、いつ、どこで、だれによって加工されたのかを、追跡可能な状態にすること
注2:人間の五感(目・耳・鼻・舌・皮膚)を使って品質を判定する方法。
注3:「地域名」と「商品(サービス)名」からなる地域ブランドを保護することにより、地域経済の活性化を目的とした制度
丁寧な哺育が最大のポイント、牛の立場に立つ経営
現在、4軒の農家のみが手掛ける十勝若牛®。牛を飼育する農家は通常、子供を産ませ8~10か月まで育てる繁殖農家と、その仔牛を育てる肥育農家に分かれます。しかし、出荷月齢が短い十勝若牛®は特殊で、哺育から肥育までを1つの農家が担っています。一般的な農家と違って特殊な技術を要することから、簡単に頭数を増やすことができません。
十勝若牛を手掛ける「おもて牧場」では現在、3500頭の十勝若牛®を飼育しています。
「命をはぐくむという仕事です。どんなに頭数が増えてもやることは変わりません。1頭1頭を大切に、病気の牛を作らないことが重要です。特に難しいのは哺育期間。病気を見つけたらすぐに処置しなければ、最後のお肉にまで影響がでてしまいます。さらに、牛は群で生活する動物で、群の中に弱いモノを作る習性があります。弱い個体を支えてあげるのも人間の仕事。一番大切です」。と代表の表裕一郎(おもてゆういちろう)さんは語ります。
おもて牧場はいつ行っても清潔でピカピカ。牛舎は整理整頓されていて、牛たちはいつも落ち着いて生活をしています。「牛は人間と違って、トイレとご飯と寝る場所が全部同じところ。きれいにして空気が流れるようにしています。牛にとって何がいいか?を考えるのが、牛飼いとしてのあるべき姿です。それに、きちんと掃除ができない人は牧場の隅々までに気が回らない。そうすると、牛の小さな変化にも気づけないのです。だからスタッフには、清掃を徹底するよう伝えています」と表さんは話します。
粗飼料を増やし、おいしさと肉質を追求する
質の高い十勝若牛®を育てるポイントは「内臓づくり」と表さん。バランスの良い内臓を保つため、飼料の設計をしっかり行います。特に粗飼料(注4)の使用率を高めることが大切だと言います。
「以前は、14カ月という短い間に太らせなければならない、その期間に餌をたくさん食べさせなければ...と、配合飼料(注5)を多めにやっていた」という表さんですが、病気がちの牛が増えたり、ロース芯が小さくなってしまうということに気づきました。そこで改めて、牛は草食動物であるという原点に立ち戻ります。内臓のバランスを良くすれば牛も肉も良くなるのではないか?と。その気付きを与えてくれたのは、牧場をたびたび訪れるお肉屋さんやシェフたち。
「配合飼料を与えれば牛は太る...と思われがちですが、体高(体の高さ)がでないと、配合飼料を食べきることはできません。」
7~8年前から粗飼料を増やし、配合飼料を少なくしていくようになると、肉の味や質の評判も上がってきました。また、牛の内臓が整うと、病気や治療も減りました。
「今、赤身のお肉・十勝若牛®は人気があります。JAも生産者も、値段がつかずに耐え忍んだ時期を乗り越えてきました。本気でよいものを作れば、本気で売ってくれる人が出てきてくれる。そうして、自然と消費者にもおいしさが伝わるようになってきました」と表さん。
「他にあまり例のない14カ月齢の肉牛。これが一般に普及すれば、もっと育成技術も高まっていくはずです。まだまだ違うやり方があるんじゃないかと思っています」と、思いを熱く語ってくれました。
注4:草あるいは草をもとに作られた飼料。生草、サイレージ、乾草、わら類等
注5:トウモロコシや大豆、麦、ふすま、粕類など、種々の原料を配合・加工して、「栄養素が調整された飼料のこと
おすすめレシピ
十勝若牛のロースステーキ わさびクリーム/ごま照り焼きソース/味噌バター
しっかりと厚みがある十勝若牛のステーキ肉は、噛めば噛むほど出てくる赤身肉の旨味と適度な脂部分のバランスの良い味わいが楽しめます。「お肉を食べた」という満足度が高いステーキ肉です。シンプルに表面を強火でさっと焼いて肉汁を閉じ込め、瑞々しく仕上げるのがポイント。和の食材を使った、簡単にできるソースでお好みの美味しさを見つけてください。
<材料>
- ロースステーキ肉
- 1枚
- 塩
- 少々
- こしょう
- 少々
- 油
- 大さじ1/2
【わさびクリーム】※2~3枚分
- クリームチーズ
- 50g
- 牛乳
- 大さじ1
- しょうゆ
- 小さじ1/4
- わさび
- 小さじ1・1/2
【ごま照り焼きソース】
- (A)しょうゆ
- 大さじ1
- (A)みりん
- 大さじ1・1/2
- (A)砂糖
- 小さじ2
- (A)水
- 大さじ1
- ごま油
- 小さじ1
- 白すりごま
- 大さじ1
【味噌バター】※(A)は先に混ぜ合わせておく
- (A)味噌
- 20g
- (A)みりん
- 大さじ1・1/2
- (A)砂糖
- 小さじ1
- (A)水
- 大さじ1
- バター
- 10g
<作り方>
(1)
- 肉は筋を切り、塩、こしょうをする
(2)
- フライパンを強火で熱して油をひき、片面1分半を目安に両面を焼き、取り出す
(3)
- アルミホイルで包んで保温しながら5分おく
(4-1)【わさびクリーム】
- クリームチーズをやわらかく練り、牛乳、しょうゆ、わさびを加えて混ぜる
(4-2)【ごま照り焼きソース】
- 肉を焼いたフライパンの油をキッチンペーパーで軽くふき取り、(A)を加えて一煮立ちさせる。すりごまを加えて火を止める
(4-3)【味噌バター】
- 肉を焼いたフライパンの油をキッチンペーパーで軽くふき取り、(A)を加えて一煮立ちさせる。バターを加えて火を止める
(5)
- 肉を食べやすい大きさに切り、器に盛り付け、好きなソースを添える
ともながあきよ さん
フードコーディネーター/日本茶アドバイザー
"「食」で日常を最高に豊かに"を軸に、Web媒体、新聞、フリーペーパーを中心に料理スタイリング・レシピ作成に従事し、携わったカタログ・会員誌は200冊近く。ほっとする家庭的なフードスタイリングを多く手掛ける。また、食品メーカーでの調理指導・レシピ作成指導を4年担当し商品の魅力を最大限に広げるアレンジレシピに定評がある。
