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つくり手の想い とかちの味力 技術・魅力にせまる

Vol.3 十勝のチーズ

Vol.3 十勝のチーズ

国内有数のチーズの産地、酪農王国・十勝。
数々の賞を受賞、高い技術力を誇るチーズ工房のこだわりに迫ります。

Episode 02 酪農とともに、自然によりそうチーズづくり

チーズ作りと原体験

国内外から高い評価を得るしあわせチーズ工房のチーズ職人・本間幸雄さん。そのチーズ作りは伝統的なスタイルで行われます。全身を使って、布でチーズの素となるカードを力強くたぐり寄せる。優しい表情とは裏腹に、決して妥協はありません。生乳に乳酸菌や酵素(レンネット)を加えてたんぱく質を固めたカードからさらに水分(ホエー)を抜き、型に入れ、チーズにしていきます。この一つ一つの工程を丁寧に積み重ね、乳と対話を重ねるようにチーズを作っています。

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本間さんは、長野県出身。農家から仕入れた花でリースを作るなど手仕事の得意な母と、自然の中で遊んでくれた父のもとで育ち、幼いころから、自然の中で生きることや手仕事に憧れを抱いていました。

そんな本間さんがチーズ職人を目指すきっかけとなったのは、高校2年の夏にテレビで見たドキュメンタリー番組。岡山県吉田牧場のチーズ職人、吉田全作さんの特集でした。乳という液体からチーズという固形のモノを生み出す吉田さんの手仕事に感動し、すぐに「自分もチーズを作りたい」との思いを綴った手紙を送ったところ、吉田さんから手紙の返事と一緒にチーズが送られてきました。このチーズがまた美味しかった・・・手紙には「チーズを作りたいなら、牛飼いからやるといい。牛からしっかり学んで」という酪農家らしい吉田さんの暖かいアドバイスも記されていました。

酪農とともにあるチーズ

チーズ職人になると決めた本間さんは、地元の農業大学校を卒業後、国内でもトップクラスのチーズ工房である北海道新得町の共働学舎へ。牛を飼うところからチーズ作りまでを一貫して行うスタイルは、チーズ職人を目指すきっかけとなった吉田さんの教えにもかなう環境でした。ここで、チーズ職人・牛飼いとしての経験を積みながら、自分の理想のチーズ作りができる場所を探し求め、ついに放牧酪農を営む足寄町のありがとう牧場に出会ったのです。

牛が自然な環境で、のびのびと暮らす広大な牧場。ありがとう牧場の主である吉川さんの酪農に対する姿勢に強く共感した本間さんは、そこで1年間研修し、2013年に「ありがとう牧場 しあわせチーズ工房」を立ち上げます。

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「この牧場での研修で、酪農とチーズは切っても切り離せないことを、身をもって理解した。牛飼いを通して、チーズの要である乳の源泉を学べたことは、貴重な経験だった」と本間さん。

牛と向き合う日々を通して、草の1本1本がミルクの1滴1滴を作っているということに、初めて気づいたといいます。

「牛があまりにもおいしそうに草を食べるので、牛が食べた草をかじってみたら、すごく甘くておいしい!その甘さと牛乳の甘さが一緒だったんです」

季節で変わる、放牧乳とチーズの味

本間さんの作るチーズはフランス系熟成タイプ。原料の生乳は「ありがとう牧場」の放牧乳です。

放牧牛は自然なサイクルで生きているがゆえに、季節によって乳量も乳質も大きく変化します。しかし、この生乳の"違い"こそが、何より魅力的な個性を生みます。どの時期の、どんな乳で作っているかで、個性の違ったチーズができるのです。

2~3月は子牛が生まれる時期。分娩直後の乳は脂肪分が高くたんぱく質も多い。水分の抜けが悪く、長期熟成には向かないため、ウォッシュタイプのチーズ「茂喜登牛」やラクレットに仕上げます。「茂喜登牛」はエゾマツの木の皮を巻いて熟成させたもの。もっちりとした柔らかさと、やさしいミルクの甘みが特徴です。

5月、牛たちが栄養価の高い青草(スプリングフラッシュ)を食べられるようになると、乳量もぐんと増えます。牛の胃袋も移行期となり、乳質も大きく変化。生乳を酵素で固める時間が徐々に短くなり、この時期から熟成期間の長いハード・セミハードタイプのチーズに適してきます。

6~7月は、乳脂肪分が低く、たんぱく質が高い乳になり、長期熟成(18か月)に耐えられるチーズが作れるようになります。2022年に、英国のチーズコンテスト・ワールドチーズアワードで最高賞「スーパーゴールド賞」を受賞したチーズ「幸」は、この時期のミルクで作ったものです。

9月になると、牛が好む草の状態に。乳脂肪分が濃くなるため、上手に脂肪分を抜いてたんぱく質を残せれば、糖分が高くキャラメルのような味のチーズができます。

11月、放牧が終了して乾草を食べるようになると、乳脂肪分が5%を超えてきます。この時期は、ヨーグルトが最高に美味しい!まるでレアチーズケーキのような味・食感になります。

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チーズ職人として

工房設立後も、本間さんは修行を重ねました。特にフランスでの体験は印象的だったといいます。

「酪農やチーズ作りは土地に縛られます。フランスでは、土地の環境に合わせて牛の飼い方を工夫していて、その乳から作られるチーズは土地の風土に合った味になるんですよ」。

"その土地だからこそ"できる、最大限美味しいチーズ。本間さんは、足寄の地でも絶対にそんな美味しいチーズを作ってやろうという覚悟を決めました。

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本間さんは「放牧の乳を扱うことは、自然の摂理に逆らわないこと」と考えています。時期によって異なる乳の状態を把握し、質も量も十分なチーズを作れるようになるまでには、10年以上かかったといいます。

「乳質が変わるたび、チーズの作り方も一から調整します。放牧乳を扱うにはジェットコースターに乗るくらいの覚悟が必要ですね」。本間さんのチーズは国内外で評価され、いくつもの賞を受賞してきましたが、その期待に応えようと悩み苦しんだ時期もあった、と振り返ります。

「牧場が最善を尽くしてくれた乳を扱うからには、最大限美味しいチーズにしたい。味を安定させることも大切だとは思いますが、チーズを食べてくれる人とのコミュニケーションをしっかりとり、その時々の美味しさを伝えたいと思っています」。

"季節で味が違う"ことのユニークさ。その変化を楽しんでもらうことが、食べる人の食卓を豊かにし、それが作り手の豊かさにもつながると考えています。近年は、変化を楽しむことこそが自然の中に生きる私たちの文化であると、理解してくれる消費者も増えてきました。

「最終的に、チーズにとって味と風味を決めるのは牛乳と乳酸菌が90%」と本間さん。だからこそいつも「この牛乳のポテンシャルを、もっと引き出せるんじゃないか?」と自問しながら挑戦を続けています。

これからも変化し続ける、しあわせチーズ工房にご期待ください。

おすすめレシピ

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「幸」を使った、ひとくち枝豆チーズコロッケ

ぎゅっと詰まった旨みが味わえるチーズ、「幸」。噛めば噛むほど味と香りが広がり、スライスしたてを頂いても、とても美味しいチーズです。今回は贅沢に塊でこのチーズを味わいたいと思い、じゃがいもを丸めるだけのシンプルなコロッケに入れてみました。熱で「幸」がとろっと溶けると、ミルクの甘みを更に感じることができ、じゃがいもとチーズの相性の良さも実感できます。枝豆はコロッケの食感のアクセントに入れてみましたが、「幸」のナッツ感ともぴったりです。お好みでバジルを添えたり、レモンを絞りながら、ぜひお試しください。

<材料>(約10個)

じゃがいも
300g
幸(チーズ)
35g
枝豆
20粒
小さじ1/2
こしょう
少々
バジル
2枝
レモン
1/8切
【コロッケの衣】
小麦粉
大さじ3
溶き卵
1/2個
パン粉(細かめ)
大さじ3
揚げ油
適量

<作り方>

(1)

じゃがいもは皮をむいて1cmの輪切りにし、鍋にじゃがいもがかぶるくらいの水を入れて茹でる。柔らかくなったら湯を捨て、マッシャーなどでなめらかになるまで潰す。

(2)

潰したじゃがいもに塩、こしょうを加えて混ぜ、冷ましておく。

(3)

チーズは1.5cm角に切る。枝豆はさやから実を取り出す。

(4)

(2)を10等分し、中央にチーズと枝豆2粒を乗せて丸める。

(5)

小麦粉、溶き卵、パン粉の順に衣をつけ180度に熱した油で色づくまで揚げる。

(6)

器に盛り付け、お好みでバジルとレモンを添える。


ともながあきよ さん

フードコーディネーター/日本茶アドバイザー

"「食」で日常を最高に豊かに"を軸に、Web媒体、新聞、フリーペーパーを中心に料理スタイリング・レシピ作成に従事し、携わったカタログ・会員誌は200冊近く。ほっとする家庭的なフードスタイリングを多く手掛ける。また、食品メーカーでの調理指導・レシピ作成指導を4年担当し商品の魅力を最大限に広げるアレンジレシピに定評がある。

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