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つくり手の想い とかちの味力 技術・魅力にせまる

Vol.3 十勝のチーズ

Vol.3 十勝のチーズ

国内有数のチーズの産地、酪農王国・十勝。
数々の賞を受賞、高い技術力を誇るチーズ工房のこだわりに迫ります。

Episode 03 めざすのは、”山のチーズ”

酪農の恵みを生かすチーズを作りたい

チーズ職人には色々なタイプの方がいます。感性が重要だという方もいれば、ロジカルに数字を突き詰めるタイプの方、最近では「Youtubeを見て技術を学んだ」という方も・・。

広内エゾリスの谷チーズ社の寺尾智也さんは、実践で得た豊富な知識と経験、技術を持ったチーズ職人。日本を代表するチーズ職人を多数生み出してきた共働学舎新得農場で工場長を務めた後、2020年に独立。ナチュラルな生乳の風味を生かしたチーズは、瞬く間に人気になりました。

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寺尾さんが酪農について考え始めたのは、小学生の頃。牛乳の生産調整を目の当たりにしたことがきっかけでした。当時、国内では需給バランスの崩れから生乳が余り、大量に廃棄処分されていました。その痛ましい様子は、牛乳が大好きで酪農家の友達も多くいた寺尾さんにとって、大きな衝撃だったといいます。

その後東京農業大学に進学し、全国各地の酪農家で現場研修を重ねるうちに、「酪農を持続可能な産業にするために、自分に何ができるか」を深く考えるようになります。そして、自らが酪農家になるのではなく、酪農の恵みを生かすチーズ職人の道を進むことに決めました。卒業論文のテーマも、持続可能な酪農を支える「酪農の自給飼料生産」。しかし、国内の取り組み例は少なく、調べていくとヨーロッパに自分の考えに合った酪農があることを知ります。チーズそしてヨーロッパ。これが寺尾さんの目指す道となったのです。
「僕は直観的なタイプで、自分の見たものしか信じないところがある。だからこそ、見る目を養わなければと思って」。

その言葉通り、寺尾さんは延べ3年、チーズの本場であるフランスに留学します。

フランスでの学びと体験が今の基礎を作る

渡仏後3年目、国立乳製品学校(Ecole Nationale d'industrie laitiere:略称ENIL)への入学を果たした寺尾さん。「学校では、チーズを相対的かつ体系的に学ぶことができた」と振り返ります。

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インターネットの普及等で、日本にいながらも多くの情報に接することができる一方、得られる知識は断片的でかいつまんだものになりがちです。しかし、寺尾さんはこの学校で乳とチーズについて基礎から体系的に学んだことで「迷い悩むことがあっても、常に原点に立ち戻ることができる。ENILで学んだことは、自分のチーズ作りの基礎になっています」と語っています。

また、サヴォア地方ボンヌヴァル村での研修も、チーズ職人としての道に大きな影響を与えました。人口約300人の、この小さな村では"ボーフォール"というチーズを作るため、牛を放牧して牛乳を生産しています。乳は手搾り、作業機械も古いものばかり。電気も一部しか通っていないという、原始的ともいえる村の暮らし。しかし、村の放牧乳で作られるチーズは、地域にしっかりと根付いていました。夏の乳で作ったハードチーズは、冬の厳しさを乗り越えるための大切な栄養源になります。

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生きるために食があり、それを支える生活がある・・派手ではないけれど、なんて幸せな暮らしだろう。自然とともに生きるフランス人の哲学や考え方、それが生き方の価値にもなっていることに、寺尾さんは深く共感したといいます。

その後、帰国した寺尾さんが選んだのは、新得町のチーズ工房 共働学舎。山に牛を放牧し、そのミルクでチーズを作っているこの工房には、寺尾さんが目指すフランスの山のチーズ作りに近い環境がありました。共働学舎でチーズ職人として活躍した後、これまで以上にチーズを地域の生活に根付かせたいと、寺尾さんは「広内エゾリスの谷チーズ社」を立ち上げます。

パンとともにあるチーズを目指して 

寺尾さんのチーズの特徴は、主に放牧乳を使って作られていること。のびのび育った放牧牛のミルクが、季節ごとのチーズの味わいに表情を与えてくれます。そして、パンとも相性がよく、小さな子どもにも喜んで食べてもらえることも、大切なコンセプトになっています。そのコンセプトの背景には、パン職人である妻・聡子さんの存在も欠かせません。

「チーズについて学ぶ中で、パンとチーズ、ワインは切り離せない関係だということがわかりました。それを一緒に形にできる人に出会えたらいいな、と。そう思っていた時、フランスにパンを学びに来ていた妻に出会ったんです。妻のつくるパンは美味しいんですよ」。

工房を代表するチーズ「フロマージュブラン」は、聡子さんがパンやお菓子を作る時に使いやすいようにと開発されました。フロマージュブランは、水切りヨーグルトに近い食感のフレッシュチーズ。寺尾さんが作るものは、使いやすさを考慮して水分含有率を30%までに落としているため、濃厚さを感じますが、食感は軽やか。お菓子はもちろん、パンと組み合わせても非常においしいチーズです。

ラクレットタイプの「桝(ます)」は、パン屋さんとの会話から生まれました。チーズトーストにしたときにチーズの伸びがよく、ミルク感が出るように考えて作っているといいます。寺尾さんのチーズの魅力の秘密は「食べている人の姿を想像しながら作っていること」なのだと感じます。だからこそ、買い手にも伝わりやすく人気なのでしょう。

家庭の中にいつもチーズとパンと笑顔がある。そんな暮らしをイメージしながら寺尾さんはチーズを作っています。

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伝え手としてのチーズ職人を目指す

「現在の日本の酪農は、持続可能とは言い切れない」と寺尾さんは語ります。

寺尾さんはフランスで、自然と共にある粗放的な放牧酪農こそが、持続性の高い酪農の形だと感じました。しかし、国土が狭く効率を重視する日本では、牛舎で牛を飼育する「舎飼い」が一般的で、乳牛に与える飼料も多くを輸入に頼っているのが現状です。

「チーズを通して、フランスで学んだ自然とともにある生活や食の価値観について伝える担い手になりたい」と話します。

現在工房では、発足時から付き合いのある2牧場に加え、旭山のグラスフェッドミルクや、「うちの牧場の牛乳をチーズにしてほしい」と依頼があった牧場の乳を仕入れて使っています。工房で仕入れる放牧乳は、有機・放牧などの乳を通常よりも高い価格で取引できる"プレミアム乳価"という仕組みを使って、少しですが農家から高く買えるようになりました。このプレミアム乳価での買付けも、寺尾さんがホクレンと酪農家との間に入ってようやく実現しました。通常より高い乳価で取引されれば、放牧酪農が注目される一歩になります。

「自分にできることは本当に少ない。次にバトンを渡せれば私の人生は十分です」

そう話しながらも、寺尾さんはこれからもたくさんのチャレンジを続けていくことでしょう。

おすすめレシピ

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鮭としめじのフロマージュブランクリームパスタ

フロマージュブランはフレッシュな状態をそのまま食べることが多いチーズですが、焼いたり煮込みに加えたりと意外と使用範囲が広いのが特徴です。

エゾリスの谷チーズ社さんのフロマージュブランは、柔らかい酸味とミルクのコクがしっかりと感じられる味わいで使いやすく、野菜はもちろん、魚介類との相性も良いです。今回は、熱々のパスタにたっぷり絡めてクリームパスタ風にしました。和えるだけで、ほんのり香るにんにくが後を引く、軽くてさっぱりとしたクリームパスタが出来上がります。フロマージュブランがよく絡むように、パスタは少し太めのものがおすすめです。

<材料>(2人分)

パスタ
160g
塩鮭(甘口~中辛がおすすめ)
100g
しめじ
60g
玉ねぎ
50g
にんにく
1/2片
白ワイン
大さじ1
オリーブオイル
大さじ1
フロマージュブラン
150g
少々
こしょう
少々

<作り方>

(1)

にんにく、玉ねぎはみじん切りにする。しめじは石づきを切り落とし、バラバラにほぐす。

(2)

塩鮭はグリルなどで焼き、骨と皮を外し、身をほぐす。

(3)

大きめの鍋に熱湯を沸かして、塩(分量外:湯1ℓに対し10g)を加え、パスタを表示通りの分数で茹でる。

(4)

フライパンにオリーブオイル、にんにくを入れて弱火で加熱する。にんにくの香りがたったら、玉ねぎ、しめじを加え、塩(ひとつまみ)を振って中火で炒める。

(5)

玉ねぎ、しめじがしんなりしたら、ほぐした塩鮭を加えて、白ワイン、こしょうを振ってさっと炒める。

(6)

ゆであがったパスタの水気を切り、(5)に加えて和え、フロマージュブランを加えて全体によくなじませ、レモン汁を加える。(汁気が少なく馴染ませにくいときは、パスタのゆで汁を大さじ1程度加えるとよい)

(7)

器に盛りつけ、仕上げにお好みでオリーブオイル少量をふる


ともながあきよ さん

フードコーディネーター/日本茶アドバイザー

"「食」で日常を最高に豊かに"を軸に、Web媒体、新聞、フリーペーパーを中心に料理スタイリング・レシピ作成に従事し、携わったカタログ・会員誌は200冊近く。ほっとする家庭的なフードスタイリングを多く手掛ける。また、食品メーカーでの調理指導・レシピ作成指導を4年担当し商品の魅力を最大限に広げるアレンジレシピに定評がある。

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