Vol.3 十勝のチーズ
国内有数のチーズの産地、酪農王国・十勝。
数々の賞を受賞、高い技術力を誇るチーズ工房のこだわりに迫ります。
Episode 01 このうまさは十勝の誇り。十勝の魅力を発信するモールウォッシュチーズ
"十勝の誇り"をチーズに込めて
「十勝品質事業協同組合」という名前の団体が、なぜチーズ?と不思議に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そもそものきっかけは、「十勝でつくられる農産物の価値と品質をより高めたい。海外でも認められるモノづくりを行っていきたい」という地元生産者と経済人の強い想い。
そのためには何からスタートすべきか。集まった生産者と経済人が様々な可能性を検証する中で、十勝は酪農が盛んであること、"十勝=乳製品"のイメージが定着していること、国内有数のチーズ産地としても高い技術力があることに着目し、「まずはチーズから十勝の魅力を世界へ発信していこう」と2015年に組合を設立。"十勝PRIDE"のブランド名で十勝ラクレット モールウォッシュを全国に販売しています。
十勝品質事業協同組合では、実はチーズの"製造"は行っていません。
十勝には30を超えるチーズ工房があり、それぞれが特徴的で魅力的なチーズを作っています。しかし、組合の創設メンバーは、他の地域に先んじて"チーズ=十勝"のイメージを強固にしていくために、ここ十勝を代表するチーズを作り、それをブランド化していくことが重要だと考えました。
海外では、チーズを作る人、熟成を手掛ける人、販売する人、と役割が分担されています。これに倣い、組合は各チーズ工房から集められた熟成前のチーズを、共同熟成庫で一元管理。「品質管理と熟成」「販路開拓」をその役割として担うことにしたのです。現在は10件のチーズ工房が組合員工房として所属。この共同熟成庫にチーズを納品し、月400~500玉が十勝ラクレットとなって出荷されていきます。
モール温泉だから出せる、穏やかな味わい
十勝を代表する食べ物が「チーズ」だとすれば、十勝を代表する資源に「モール温泉」があります。植物性有機物が多く含まれる世界的にも珍しいボタニカル由来の温泉水で、お肌にいい「美人の湯」としても有名です。そして、十勝品質事業協同組合のチーズ熟成の特徴は、なんといってもこのモール温泉水を使っていること。
一般的なウォッシュチーズは、外皮を塩水や酒で洗い、表面を磨きながら熟成を促していきますが、組合の共同熟成庫では、塩水の代わりにモール温泉水を使用しています。そして、この工程が、十勝ラクレット独特のまろやかな味わいを生み出しているのです。
帯広畜産大学との共同研究でも、弱アルカリ性を示すモール温泉水は磨きに適していることに加えて、モール温泉水に含まれる植物性の有機物(フミン酸等)がうまく働き、優しくまろやかな味わいのチーズが出来上がる、という結果が示されました。
研究では、同じ工房で作られた同じロットのグリーンチーズを、塩水とモール温泉水、それぞれを使って熟成させ、官能検査を行ったところ、見事に結果が異なりました。モール温泉水を使ったものは、塩水と比べると優しく穏やかで、角のないチーズに。まろやかで豊潤な香りがする、日本人好みの食べやすいチーズに育ったのです。
母のようにチーズを育てる
各工房から組合の共同熟成庫に納品されるのは「グリーンチーズ」と呼ばれる、真っ白な出来立てのチーズ。毎月400玉ほどのグリーンチーズが集まってきます。
集まったグリーンチーズは予備熟成庫での各種検査(注1)を経て本熟成庫に移され、熟成担当者の手によってゆっくりと時間をかけて大事に熟成されます。
注1:検査内容として、計量、芯温、水分量、微生物検査(大腸菌、大腸菌群)等を行っています。検査の一部は、外部の検査機関にて行われています。
モールウォッシュができるまでには「チャポン」と呼ばれる大切な儀式があります。
入荷直後、温泉水に"チャポン"とつけ、まずはチーズをリラックスさせます。温泉水は、チーズにとって化粧水代わり。乾いた表面に潤いを与えると同時に、殺菌することもできます。温泉水自体にも殺菌効果がありますが、その効果を高めるために、温泉水は塩分10%に調整しています。その後、本熟成庫では、ひとつひとつのチーズの状態をみながら、モール温泉水で表面を磨き、反転させる作業を繰り返します。
「ホールのチーズは1玉約4キロで、ちょうど生まれたばかりの赤ちゃんくらい。丁寧に見ていくと、1つずつ本当に違いがあるんですよ」、と熟成担当の須崎さんは愛おしそうにおっしゃいます。熟成担当者の多くは、プライベートでもお母さん。我が子のように、チーズの様子を注意深く見守り、愛情深く丁寧に扱っています。
工房ごとの個性も、モールウォッシュラクレットの魅力
ラクレットのもととなるグリーンチーズは共通のレシピを元に、十勝管内の各工房で作られていますが、同じレシピで作っているのに、工房ごとに個性があるのもユニークな点です。
例えば、共働学舎で作られたチーズはブラウンスイス種の乳を使っているため、香りも味も濃厚なのが特徴です。一方、十勝野フロマージュのものは、ヨーグルトのようなあっさりとした風味。
幕別町の工房NEEDSで作られたチーズは熟成段階で中がもっちりして滑らかな舌触り、あしょろチーズ工房のものは他よりサイズが大きくしっかりした硬さでまろやかな風味になっています。
TOYOチーズファクトリーのチーズはキメが細かいものが多く力強さがあり、エゾリス谷チーズ社のものは放牧牛の乳を原料としており、季節ごとの味わいが楽しめます。
原料としている生乳だけでなく、工房ごとに在来の菌が異なるため、熟成の進度・深度も変わり、その結果として味や質感、香りなどに特徴が出てくるのだそうです。
それぞれのチーズの違いを把握し、使い方に応じて最適なラクレットチーズを提案してくれるのが、営業担当の三浦さん。
「味や香りがマイルドで食べやすいものから、個性の強い上級者向けまで、多様な個性を持ったラクレットが揃っているのが我々の共同熟成庫の特徴です。こだわりのある飲食店様からは、チーズ工房指定でオーダーいただくこともあります。ご希望の使い方に応じて、ぴったりな特徴のラクレットをご提案できますので、ぜひご相談ください」
十勝の魅力と誇りが形になった「十勝ラクレット モールウォッシュ」
これからも、全国、世界に広がっていきます。
おすすめレシピ
十勝ラクレットのたこやきラクレットフォンデュ
ラクレットチーズは香りのクセが強いものも多いのですが、十勝ラクレットはそのクセが少なく、程よい塩気とミルクやバター感のある優しい味わいで、とても食べやすいと感じました。今回はたこ焼き器で作るチーズフォンデュのレシピですが、ナチュラルチーズに慣れていない方にも楽しんでいただける、まろやかな味に仕上がっています。
少しクセを楽しみたい場合は、ラクレットの外皮も一緒に加えてみるとコクが増します。お子様と楽しむ場合は、白ワインを野菜スープや牛乳に変えてみてください。たこ焼き器は電気タイプが火の通りが早すぎず、慌てないのでおすすめです。火傷に注意しながらお好きな具材でお楽しみください。
<材料>
- 十勝ラクレット
- 160g~
- にんにく
- 1片
- 白ワイン
- 150ml
- 片栗粉
- 小さじ1・1/2
- 水
- 大さじ1
- 黒こしょう
- 適量
- 具材
- 豚肉(ステーキ用など厚みのあるもの)・フランスパン・ブロッコリー・かぼちゃ・パプリカなど、お好きな具材
<作り方>
(1)
- ラクレットは1cm程度の角切り、にんにくはみじん切りにする。片栗粉に水を加えて混ぜておく。
(2)
- 具材の準備(豚肉は塩こしょうを振って下味をつけ、油を引いたフライパンで焼き、一口大に切る。フランスパンは一口大に切る。かぼちゃはラップで包み、電子レンジで加熱し、一口大に切る。ブロッコリーは小房に分けて茹でる。)
(3)
- 小鍋に、にんにく、白ワインを入れて加熱し、煮立ててアルコールを飛ばす。水溶き片栗粉を入れてとろみをつける。
(4)
- (3)をスプーンで、たこ焼き機のくぼみに注ぎ分ける。
(5)
- チーズを8gずつ、くぼみに入れて加熱し、混ぜてチーズをよく溶かす。チーズが溶け始めたら、お好きな具材を入れて黒こしょうをふり、チーズを絡める。
ともながあきよ さん
フードコーディネーター/日本茶アドバイザー
"「食」で日常を最高に豊かに"を軸に、Web媒体、新聞、フリーペーパーを中心に料理スタイリング・レシピ作成に従事し、携わったカタログ・会員誌は200冊近く。ほっとする家庭的なフードスタイリングを多く手掛ける。また、食品メーカーでの調理指導・レシピ作成指導を4年担当し商品の魅力を最大限に広げるアレンジレシピに定評がある。