Vol.4 十勝の豆
お菓子も料理も、いろどり鮮やかに。
高品質で希少な豆類を育てる、生産者のこだわりに迫ります。
Episode 02 十勝からあんこ文化を発信
小豆=森田農場を目指していち早く通販をスタート
「インターネットでの通販を始めた20年前、小豆は売れない、小豆の時代は終わったなどと懐疑的な声もありましたが、実際には想像以上の売り上げを作ることができました」
十勝清水町・森田農場の4代目、森田哲也さん・里絵さんご夫妻は、総面積72ヘクタールを有する大規模な畑作農家。特に小豆に力を入れ11ヘクタールもの広大な農地で栽培を行っています。
標高183mという冷涼な環境に加え、栽培から収穫、乾燥、調整、選別、販売までを一括管理することで、渋みの少ない高品質な小豆を作り上げる森田農場。中でも乾燥にはこだわり、ゆっくり時間をかけて熟成させています。このひと手間により、渋みの元であるタンニンを抑え、甘味が増し、きめ細かく鮮やかな赤色の小豆に仕上がると言います。
手間ひまをかけて出来上がった自慢の小豆の美味しさをみなさんに伝えたいという思いから、森田農場では自社サイト「小豆らいふ」での直販も行っています。
本当に「いいもの」なら、お客様が評価してくれる。
スタート直後から「これを求めていました!信頼できる農家から直接買いたかった!」というお声を複数いただき、今も多くのお客様がリピートしてくださっているといいます。
通販は確立するまで時間がかかりますが、数量が少なくとも長くやっていくこと。何より農家がお客様と直接キャッチボールができる良さを痛感していると森田さんは話します。現在、通販は小豆全体の売り上げの3割を占めるまでに成長しました。
ゆでこぼし不要!?森田小豆の魅力と特徴
「タネそのものを丸ごと食べる食材は非常に少ない。小豆は究極のホールフードなんです。」
小豆は、食物繊維的が豊富で、炭水化物・たんぱく質の含有が高い食材。さらに、ビタミンB群、鉄やカリウムといったミネラルなどもバランスよく含まれる上に、アレルゲンもありません。
特に抗酸化作用の高いポリフェノールの量は赤ワインの2倍といわれ、私たちの体を内外から守ってくれます。タネそのものを食べることで、種の遺伝子を守るための"自然のバリア機能"を丸ごといただくことができるのです。
なお、小豆は、煮立たせた後に渋みやアクを取り除くため、いったんその煮汁を捨ててから煮詰めなおすのが一般的。(これを「渋切り」といいます)。通常は1~2回、中には3回もの湯でこぼしが必要な小豆もあると言います。けれども、これでは煮汁の中に溶けだした小豆本来の風味や栄養素まで捨ててしまうことになります。
森田農場の小豆は、タンニンが少なく、渋みを感じにくいため、調理時にこの「渋切り」がいらないとのこと。一滴の水もこぼさない=小豆本来の旨味や風味を余すことなく、その栄養素もまるごと煮詰めることができるのです。
しかし、実はこのポリフェノール、水に溶けやすく、その多くは調理時に煮汁に溶けだして、渋切りの際に捨てられてしまっています。小豆への愛にあふれる森田さんご夫妻は、渋切りをしないことで、その栄養素も余すことなく食べてほしいと願っています。
通販を始めたころ、70代の男性から「妻の健康のために酵素玄米(注1)を食べさせたいと小豆を探し、たどり着いたのが森田農場です。森田農場の小豆を使った酵素玄米を生活に取り入れて、妻の体力は回復しました」という嬉しいメッセージも届いたそうです。
「昔からの教えで、お彼岸におはぎを食べるでしょう?これには、季節の変わり目に気持ちを安定させたり、体調を整えるという意味もあったようですよ」と森田さん。小豆は単なる食材としてのみならず、日本人の食文化や健康観にも深く根付いているということでしょう。
注1:玄米に小豆・塩を入れて炊き、3~4日程度保温したもの。寝かせ玄米ともいわれる。
豆のある生活、豊かさを知ってほしい
「豆は日本の伝統食材ですが、その利用方法は非常に多岐にわたることが意外と知られていないんですよね。」
森田農場では、生豆のみならず、「小豆茶」、「発酵あずき」、蒸して手軽に食べられるようにした「そのまま食べるホクホクあずき」、炊き上げた「森田あんこ」などの多様な小豆商品を販売しています。さらに「黒豆茶」、「黒豆プロテイン」などの小豆以外の豆商品も充実しており、手軽に豆のある生活を始めてほしいという強い意志が感じられます。
伝統的な使い方にとらわれない、新たな商品も積極的に開発して、農産物の付加価値向上にも取り組んでいます。
例えば「発酵あずき」は、小豆を発酵させることで、砂糖を使わずに自然な甘みを引き出した人気商品。0から開発を手掛け、クラウドファンディングを通じて資金を集め商品化を行いました。最近徐々に人気が出始めているのが「黒豆プロテイン」。昨今のフィットネスブームの後押しもあり、売り上げが伸びています。
加工品を作ることで、消費者の皆様に手軽に食べてもらえるだけでなく、規格外品となってしまう豆たちにも新たな命を吹き込み、再生産可能な農業経営にもつなげることができています。
世界に小豆文化を発信
「海外での和菓子のイメージは上生菓子などにみられるような上品な味わいと繊細な美しさですが、もっと日常的なお菓子として、世界に向けて小豆の魅力を伝えたいんです。」
森田さんご夫妻は、「世界に向けて日本が誇るあんこや小豆文化を発信したい!広めたい!」という大きなビジョンも持ち、どら焼きやたい焼き、大福など、より生活に根ざした食べ方を海外に向けて提案しています。
実際にフランスにも訪れて、その魅力をPR。現地でゲリラ的に行ったどら焼きの試食販売イベントは大成功をおさめ、大行列ができたと言います。
「生まれて初めてどら焼きを食べた、という人が多かったにも関わらず、非常に評判がよかった」と森田さん。「ドラえもんが好きな食べ物であったことも大きいんですよ」とニッコリ。
世界の人々にあんこと和菓子の魅力に気軽に触れていただくことで新たなファンを増やしていきたい、十勝が世界に誇る食材として「小豆」の魅力をもっともっと伝えたいと力強く話します。
時間をかけても丁寧にあきらめることなく、農家のプライドをかけた取り組みを続ける森田さんご夫妻。10年後には世界にあんこ文化と十勝小豆ブランドが伝わっていることを期待しています。
おすすめレシピ
森田あんこのブラウニー
森田農場さんのあんこは、甘さが控えめな仕上がりであずきの風味がしっかりと残った素朴なあんこです。今回はたっぷりとココア生地に入れてブラウニーにしました。チョコレートは使わず、砂糖もギリギリまで減らしていますが、おいしいあんこのおかげでしっとりとして濃厚な味わいのブラウニーに焼き上がります。豆のほっくりとした食感と優しい甘さがやみつきに。コーヒーはもちろん、日本茶との相性も良いです。
<材料>(15cm角型1台分)
- 森田あんこ
- 200g
- 卵
- 2個
- 薄力粉
- 40g
- ベーキングパウダー
- 3g
- 牛乳
- 30ml
- バター
- 40g
- 砂糖
- 50g
- ココア
- 40g
- 白いりごま
- 適量
<作り方>
(1)
- ボウルにあんことバターを入れて湯煎にかけ、あんことバターがしっかりなじむまで混ぜる。
(2)
- 別のボウルに卵を割り入れて、泡だて器でほぐし、砂糖を加える。砂糖が溶けて泡が少し立つまで混ぜる。牛乳と(1)を加えて、なめらかになるまで混ぜる。
(3)
- 薄力粉、ベーキングパウダー、ココアを合わせてふるい入れ、ボウルの底からすくい上げるように手早く混ぜる。
(4)
- 生地を型に流した後に上から白いりごまを散らし、160度のオーブンで約20分焼く。竹串を指して、どろっとした生地がついてこなければ焼き上がり。
(5)
- 型から外し、オーブン用ペーパーをつけたまま網の上で冷まし、食べやすい大きさに切る。
ともながあきよ さん
フードコーディネーター/日本茶アドバイザー
"「食」で日常を最高に豊かに"を軸に、Web媒体、新聞、フリーペーパーを中心に料理スタイリング・レシピ作成に従事し、携わったカタログ・会員誌は200冊近く。ほっとする家庭的なフードスタイリングを多く手掛ける。また、食品メーカーでの調理指導・レシピ作成指導を4年担当し商品の魅力を最大限に広げるアレンジレシピに定評がある。